ぽぴれあの大学入試数学解説ブログ

2014年度東大数学113点のぽぴれあちゃんが受験数学を解いてイキるためのブログです

【受験数学】D問題にも種類がある 【2022年東大数学第6問解説】

D問題

高校生が受験数学を勉強する際によく聞くワードです。
この評価がつけられた問題は例外なく難しく、一部のとんでもなく数学が得意な超強者が趣味で解くことがよくあるが、入試本番ではそんな彼らですら制限時間内に太刀打ちできないとかなんとか。

まあ、とにかく捨て問とされるやつです。D問題が取れなくても合否に影響は出ないと言われていますが、確かに誰も解けないんだから自分が解けないからと言ってディスアドバンテージを背負うことにはならないでしょう。

……本当にそうでしょうか?

実はあなたにも解けるD問題があるかもしれません。それを今回は述べてみます。

例:2011年東大理系第6問

キモすぎます。

(1)はさすがにいいとして、(2)と(3)がヤバい。
(1)でそもそも場合分けが4つも発生するのに(2)でそれを利用して最大値と最小値の差が1以内である領域を図示せねばなりません。というかそもそも最大値と最小値の差が1以内であることが必要十分であることを読み取る時点で脱落した人もいることでしょう。やってることは単純な不等式の図示なんですが、慎重にやらないと完答は難しく非常にヘビーです。
(3)は(2)と同じような不等式があるように見えますが、立体の概形が(2)で図示したものと全く異なるのでまた改めて条件を整理しつつグラフを描く必要があり、非常に苦労します。

やること自体は分かっても処理量があまりにも多いタイプの難問です。

このようにそもそも考えることも難しいのに処理量すら多すぎるという問題は確かに解けませんね。この問題は正直答えを見ながら解いても30分くらいかかりますから、名実ともに捨て問と言って差し支えないでしょう。

では次の問題はどうでしょう?

例2:2022年東大理系第6問

また問題文がキモいですが、今度は実は解ける人なら15分とかで解けてしまいます。
何故ならこの問題は問題文の設定が初見すぎるので状況を把握すること自体が難しいが、わかってしまえば計算自体はそう面倒なものではないからです。

先ほどの問題は問題文がやりたいことを把握するハードルは (この問題よりは) 低かったのですが、処理量があまりにも多く時間を大きく失うためほとんど誰に取っても捨て問だったのでした。あれを取りに行っていいのは他の問題が簡単に思えるほどの数学強者で、残り時間が40分とか余ってる人だけです。
が、この問題はそのレベルの数学強者なら短い時間で解けてしまうため、捨て問ではなくなってしまうということがあり得るのです。

とりあえず、まず問題文の設定を理解しましょう。
そもそもこの問題は確率の問題なのですがそれは正しく認識できているでしょうか。ベクトルでXnが定められていますが、別にこれは表現手段としてベクトルを用いているだけで、ベクトルについての深い知識は何ら必要とされていません。
というかこの問題をブログとかで解説する際、とりあえず分野を記載する際に「確率」じゃなくて「ベクトル・確率」って本気で書いてる人がもしいたらその人は数学に向いてないです。

面倒なので一言ずつ噛み砕いては説明しませんが、要は問題文の状況を整理するとこうです。

座標平面上にXくんがいて、コインで表が出ると3方向のうちの今向いている方向に進みます。
コインで裏が出ると向きが変わります。

おわり。


これだけなんです。ホントこれだけなんです。なんかベクトルを使って難しいことが書かれていますが、整理するとこういうことなんです。
初見だと「表が出た場合、Xnの位置が変わって、しかしkは裏が出た回数!? 表が出たのに裏の回数を考える!? 意味が分からんぞ!!」となるかもしれません。
そして「裏が出た場合XnをXn-1と定める」とあるので、裏が出た場合は何もしないと一瞬勘違いしてしまいます。

違うのです。
裏が出た場合に何もしないわけではない。裏が出た回数はkに関わってるじゃないか。この問題では

表が出る→進む
裏が出る→向きを変える

という操作をしているのです。「表が出た場合」のところにこの条件が全てまとまって書かれているので整理が難しいですが、まずこの操作が正しく認識できるかがこの問題が解けるための第一歩です。つーかこれが一番大事なのにここを強調して述べてないブログ多すぎな。

これさえ分かれば答えまでの道のりがうっすらと見えてきます。

(1)
原点に戻るには3方向それぞれ同じ回数ずつ進めばいいということはわかるかと思います。
つまり表は0、3、6回のいずれかで、裏がmod3で0,1,2の場合にそれぞれ同じ回数ずつ表が出てる感じ。
どういうことかっていうと

(i)表が0回の場合
全部裏。1通り。

(ii)表が3回の場合
裏が5回。このとき裏0,3/裏1,4/裏2,5の3つに分類して、それぞれの場合に1個ずつ表が出ると考える。
裏0か3どっちで表が出るかで2通り、裏1か4どっちで表が出るかで2通り、裏2か5どっちで表が出るかで2通り。全部かけて8通り。

意味が分からんという人は類題であるこの問題から考えてみよう。ちなみにこれもD問題です。

例3:2013年東大理系第3問


問題文の条件を整理すると、表が出たら1点獲得+連荘。裏が出たら相手のターンになる。先に2点取ったほうの勝ち。

(1)
Aの勝利ということは最終ターンはAが表を出して勝つに決まっています。これは数学というよりルールちゃんと読んでくださいって話なので国語の問題です。

そして勝利パターンは2つの場合に分けられることがわかるはずです。

(i)Aが2点、Bが0点で勝ち
(ii)Aが2点、Bが1点で勝ち

(i)の場合
裏が出ると相手のターンになるのだが、最終的にAのターンになってるはずなので裏が偶数回出てるはず。そしてAの加点が2回あるので+2回でまた偶数。コインを投げる回数は偶数回です。偶数なのでn=2mとしましょう。すると裏が出るのは2m-2回。
裏が2m-2回出ると(最初はAのターンなので)攻撃ターンはAがm回、Bがm-1回です。
で、どこかのタイミングでAが1点獲得+連荘なのでこのm回ある攻撃ターンのうちどこか1ヶ所で加点を決めているはずです。当たり前ですがどのターンで加点するかの場合の数はm通りですね。
ほかは最終ターン以外全部裏で、最終ターンは表というのは固定なので不変なはず。このパターンはm通りです。
では全体事象は…? コインをn回振るんですから2^n通りに決まってますね。
m=n/2に直して、確率はn/2^(n+1)となります。

(ii)の場合
裏が偶数回に加え、加点が合計3回なのでコインを投げる回数は奇数回です。nの偶奇で場合分けが発生していることが条件整理で分かるかと思います。問題にルール書いてあってそこから考えてるだけで、どういう場合分けをするかが自然にわかってきますね。
模範解答だけ見ると「なんでnの偶奇で場合分けするって発想が出るんだ! センスの差を感じるぞ! 俺キレそうだ!」って思うかもしれませんが、勝利条件がBが0点か1点かで話が変わってくるので、必然そこに場合分けが生じるというわけです。こういうのを自分で考える経験が大事です。

とりあえず奇数なので今度はn=2m+1とでもしましょう (m≧2) 。すると裏が出るのは2m-2回。
さっきと同じで攻撃ターンはAがm回、Bがm-1回です。
今度はAもBも加点をしますから、それぞれm通り、m-1通りの加点チャンスがあるわけですね。これらは独立なので単純に掛けて加点パターンはm(m-1)通りとなります。
ほかのターンは(i)同様固定で、全体事象は2^n通りですから、m=(n-1)/2に直して確率は(n-1)(n-3)/2^(n+2)となります。n=1,3の場合は上で議論できてないけど、代入したら0なのでそれも成立みたいなこと書いときましょう。

以上。
ちなみに(2)は計算が鬼のように面倒で40分くらいかかるので捨てていい。

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さてさっきの問題に戻りましょう。もう何が言いたいかピンと来た人はいると思いますが、つまりこの問題って今の問題とやってること一緒なんですよね。
コインで裏が出るたびに向きが右、左上、左下と変わっていて、それぞれのターン (?) に表が出る回数がそれぞれ等しければよいということ。
イメージとしてはさっきのゲームにA君、B君に加えC君まで参加して、8ターン経過後に全員同点になりましたというものに近い。
裏が5回出ると、それぞれのターンが2回ずつ回ってくる。2回のターンのうち1回で加点するのだから2通り。3人ともそうなので2^3=8通り。

考え方が一緒なので僕は2013-3と2022-6は類題だと本気で思ってます。何ならめんどくさいΣ計算がある分2013-3のほうが難しいとすら思っています。正直僕がこの問題を初めてみた時15分とかで解けたんですが、これは僕が東大2014年受験なので直近の類題である2013-3をやっていたからです。問題演習は偉大ですね。
ですが、これが類題であることに気付かなければその問題演習が無意味であるということに気づくでしょうか。「こんなの類題って発想ないんだけど…」って思った人はじゃあ今からそう考えましょう。2013-3と2022-6はやってること同じです。気付いてないだけで他にもそういう問題の組み合わせはいっぱいあるはずです。みんなが気付いていない「類題」に気付き、その背後にある原理を理解すればあなたは他の受験生と大きな差がつけられているはずです (知らんけど) 。

なんか話が脱線しまくりましたがとりあえず元に戻りましょう。
表が3回 (裏が5回) 出た場合は8通りです。

(iii)では表が6回出た場合は?
これは裏が2回なのでA君、B君、C君の攻撃チャンスは1ターンずつ。そこにすべての加点が入るため1通りで固定になりますね。

表0,3,6回のパターンをすべて合わせると10通り。全体事象は2^8=256通りなので答えは10/256 = 5/128です。

(2)
やってることさえわかってれば8回だろうが200回だろうが恐れることはありません。
まず表が3の倍数じゃないといけないのはもはや周知の事実なので、rが3の倍数じゃない時は確率は0に決まっています。こんくらい最初に答案に書いとけば2点くらいくれるでしょう。

ではrが3の倍数の場合を考えます。とりあえずr=3nとでも置いておいて、こうなると裏は200-3n回。
A君とB君とC君の攻撃チャンスはそれぞれ67-n回ずつあり、うちn回加点すればいいことがわかります。
さて、さっきまでは加点が1回とかだったので簡単だったのでしたが、67-nターンのうちn回加点となると話が変わってきますね。というわけで次の類題! 東大後期1996年第1問!

場合の数の基本みたいな見た目で、東大受けるならこんくらい解けるようになってくださいって感じですね。無限に教科書に載ってそうな問題ですが、こういう問題で場合の数の基本をもう一度確認してみるというのも重要。 (実は(4)結構ムズイけど)

まあこれは本題じゃないのでスルーしますが、今回の考え方は(2)と同じ。互いに区別のつかないn回の加点を、区別された67-n回の攻撃チャンスに振り分ける場合です。
こういうのは重複組み合わせで、つまりn回の加点の間に66-n個の仕切りを入れるみたいな考え方するわけです。つーわけで並べ方が66_C_66-nつまり66_C_n通りです。

A君もB君もC君も同じなので、全部で(66_C_n)^3通り。n=r/3でrに戻して、あとは分母に2^200敷いて終わりです。

答え:(66_C_r/3)^3/2^200

最大値なんですがCなんだからど真ん中のn=33つまりr=99で最大に決まってますw
ただ、ちゃんと論証するならC含みの確率の最大値でお馴染みの、P(n+1)/P(n)比較をしてやればよいでしょう。ちなみになんでこんなことをするのかというと、Cっていうのは定義式で階乗ってのが出てくるんですが、それがあるとややこしすぎてやってられないので、それを消すために比を取るってことです。何がしたくてそういう操作してるのかっていうのを意識すれば解法も自然と覚えられるはずです。


以上。どうでしょうか。確かにこの問題は難しいです。それはそうでしょう。
しかしこの問題が一瞬で解ける人も世の中にはいるんだということも納得なのではないかと思います。難しい計算とか一切なく、やっている操作自体は基本的なもの。ただ単に問題の状況をどう捉えるかという点に尽きますからね。
もちろんこれをみんなに「解けないとダメだ!」と言ってるわけではないです。同じ「D問題」と言っても「マジで誰も解けないやつ」と「人によってはすぐ解けるやつ」とがあるということを知っておいた方がいいのかなと。

何故ならこの問題は無理だとしても、もしかしたら解ける「D問題」が眼前に現れるかもしれないから。数学なんて1問あたりの得点が尋常じゃないので最初からあきらめてしまうのは勿体ない。
そういった視点で問題の難易度を一つの物差しだけで捉えるのではなく、「これは誰もが無理なヤツなのか」「実は考えようによってはいけるやつなんじゃないのか」「僕はこの分野得意だからこういう発想できるかもなあ」「逆にこの発想は僕には無理だから諦めるか…」とかいろいろ考えてみるとまた新たな道が開けるのかもしれません。

おわり。